
埼玉県内のシルバー人材センターの前理事長が、自らの報酬を正規の手続きを踏まずに独断で引き上げていたという報道があったことは記憶に新しいと思います。
定款や規約を無視した前理事長のコンプライアンス違反は言語道断ですが、不正を10年以上も見逃していた組織のガバナンスの欠如にも問題があったと言われています。
ちょうどこの時期は総会シーズンですので、皆さんのセンターでも理事会のガバナンスについて再確認してみてはいかがでしょうか。
シルバー人材センターは、共同共助・自主自立の基本理念のもと、総会を最高議決機関として運営されているはずですが、総会よりも理事会、理事会よりも理事長の意向が優先される組織文化では、今回のような不祥事の発見が遅れたり事務局が理事長の顔色をうかがって仕事をするような不健全な状態に陥ってしまいます。
その原因の一つに、理事長や理事の任期の長さが関係しているのではないかと私は考えています。同じ人が長く理事長を務めていると、いつの間にか誰も理事長にものが言えなくなってしまい、理事長自身も与えられた役割を超えて独善的な振る舞いになってしまうケースがあるのではないでしょうか。もちろん任期が長くても傲慢にならずにしっかりと役割を果たしている方も存じ上げていますが、それでも組織の健全な新陳代謝や人材の育成といった観点においては理事長や理事の再任に制限を設けることは有効と考えます。
一般社団法人や上場企業においても「任期は1期2年で5期まで再任できる」など理事や社外取締役の再任に上限を設けているところは少なくありません。再任の際の年齢について75歳以下などと年齢に制限を設けている場合もありますが、生涯現役を謳うシルバー人材センターには年齢制限はそぐわない気がします。再任の上限を設けた場合、上限に達するまでは解任されないと勘違いする人もいるので、会議での発言の積極性や会議への出席率などの基準を設けて、たとえ再任の上限に達していない場合でも再任しない判断ができるようにしておくこともポイントだと言われています。
任期の長さのほかにも、理事会の構成が自治体OBや歴の長い会員に偏っている場合もガバナンスが機能しない要因になります。組織の常識が一般社会の常識と乖離していた場合、それを正しく認識できない可能性があるからです。できれば外部の有識者(大学教授や弁護士、地元企業の経営者、経営コンサルタントなど)を理事に迎え入れ、理事会運営に客観的な視点を取り入れることをお勧めします。
参考までに理事の構成について規約に定めている団体の事例をご紹介します。
一般社団法人全日本テコンドー協会
(1)理事の構成について
一般社団法人全日本テコンドー協会「役員等の構成、年齢、再任の制限等に関する規程」より
①多様な意見を踏まえて当法人を運営するため、理事には加盟団体の代表である正会員および加盟団体を出身母体とする者だけでなく、学識経験者、アスリート出身者(元アスリートを含む)、女性代表などを入れてバランスを図ること。
②学識経験者の比率を25%以上とすること。
③少なくともアスリート出身者を1名以上確保すること。
④全理事のうち女性理事の比率を40%以上にすること。
⑤テコンドーその他格闘技の経験者である理事について、師範または出
身母体が同一の者が 3名を超えないようにすること。
環境経済・政策学会
役員の任期は1期2年とし再任を認めるが、連続しての任期は6年までとする。 ただし、会長任期は1期2年とし再任を認めるが、連続としての任期は4年までとし、いずれの場合でも通算して8年までとする。
環境経済・政策学会「役員の選出に関する細則」より
理事の再任に制限を設けたり外部の識者を理事に加えることに対しては、現役理事の中には強く反発する人が出てくる可能性もあります。しかし組織全体の運営の柔軟性やガバナンスの強化を考えれば、理事会のアップデートの必要性は明らかです。
理事会を聖域にせず、ぜひガバナンスの強化に取り組んでいただきたいと思います。