インボイス制度の導入で最悪の未来を迎えないために

先月からインボイス制度がスタートし、弊社でも取引先からの請求書や領収書にに登録番号が記載されているかをチェックするようになりました。もちろん発行する請求書にも登録番号を記載するよう仕様変更しました。登録番号が記載されていない領収書でも、金額によって特例があるので税理士さんにお見せする前に付箋を貼るなど新たな手間も増えました。正直なところ「インボイスのおかげで生産性が低下するな」と感じることもありますが、こうした事務手続きの増加は、いずれ慣れたり自動化していけると思います。

しかし、シルバー人材センター業界におけるインボイス制度の問題は、慣れしまえばOKということではないはずです。「とりあえず経過措置があるから大丈夫」と思っていると、茹でガエルのように何の対策もしないまま最悪の事態を迎えることになりかねません。(茹でガエルとは、カエルを常温の水に入れて徐々に水温を上げていくと、逃げ出すタイミングを失い最後に死んでしまうという寓話からの例えです)

もちろん各都道府県のシルバー人材センター連合や全シ協、自治体などが国や大臣へ意見書や要望書を提出していることは承知しています。しかし国会では残念ながらほとんど話題に登っていません。これは国会議員をはじめ一般の人が、インボイス制度がもたらすシルバー人材センターの危機を「働いている会員の手取りが減る」または「シルバー人材センターの資金繰りが悪くなる」程度だと矮小化して捉えていることが原因ではないかと思っています。

最悪の未来を迎えないために

ここで今後シルバー人材センターが抱える仕入れ額控除の問題に適切な措置がとられない場合、どんな未来が待っているのかを想像してみましょう。

経営破綻するシルバー人材センターが発生する
3年間の経過措置(課税仕入れの80%控除)の間は蓄えていた基金などを取り崩しながら増加する消費税の負担分を補填して運営していけるかもしれませんが、もしこのまま何の措置もなければ、その後の経過措置(50%控除)期間または経過措置が終わった後に消費税を支払うことができなくなり、経営破綻(解散)するシルバー人材センターが発生するでしょう。
会員・職員が働く場を失う
シルバー人材センターが破綻(解散)すれば、就業していた会員や働いていた職員は、働く場を失うことになります。
公共サービスや地元企業のサービス低下
シルバー人材センターが担っていた公共施設や地元企業の一部サービスで人材不足が発生し、サービスの質が低下する可能性があります。またボランティアに頼っていた地域の清掃や見守り活動が無くなることで、地域の景観や安全が損なわれてしまうかもしれません。
社会保障費・生活保護費の増大
高齢者の就労が社会保障費削減につながることは多くの研究や論文で示されています。シルバー人材センターが破綻すれば、すぐにハローワークなどで次の仕事に就ける人はごく一部に限られると思われるので、働き口や収入が減少した高齢者が増えることになり、医療や介護、生活保護費などの社会保障費が増加する恐れがあります。また社会保障費の増加は、高齢者だけの問題ではなく若者や現役世帯の負担増にも繋がります。
社会全体の活気が失われる
元気に働き収入を得て、それらをレジャーなどの消費に充てる高齢者(アクティブシニア)が減り、年金以外の定期的収入がなく経済活動に関しても守りに入っている高齢者(ディフェンシブシニア)が増えることは、社会全体の活気や経済にも影響を及ぼすでしょう。また「いくつになても仲間ができて仕事もできる」という場が失われることは、現役世代の将来に対する希望も損なうことになり、社会全体の活気が失われてしまうかもしれません。

いかがでしょうか。飛躍してるとか悲観的過ぎると思われた方もいるかもしれません。共感してくださった人の中にも「だからといって国会議員や全シ協に任せるしかないではないか」「自分たちにできることは何も無いではないか」と考える方もいらっしゃるでしょう。しかし、この問題に対して私たちにできることはあると私は思います。

それは「シルバー人材センターが破綻してしまっては困る」と考える人を少しでも多く増やしていくことです。増やすと言っても職員や会員だけでは足りません。若い人も含めて地域全体が「シルバー人材センターが無いと困るよね」と考えるようになるということです。そうすれば、この問題が「シルバー人材センターというひとつの業界の問題」から「社会全体の問題」として広く認知されていくのではないでしょうか。シルバー人材センターが地域経済や地域の安全・安心のために貢献していることを、もっともっと発信していきましょう。